繰り返しバブルが拓く研究のフロンティア-バブルの発生と崩壊が経済成長に与える影響について-

Frontier of the Research of Recurrent Bubbles : Impact of Bubbly Episodes on Economic Growth

2023/09/29

著者 (所属)

Author (Affiliation)

要旨

 本コラムでは、著者が2023 年に発表した学術論文、Pablo A. Guerron-Quintana, Tomohiro Hirano, and Ryo Jinnai. “Bubbles, Crashes, and Economic Growth: Theory and Evidence.”American Economic Journal: Macroeconomics, Vol.15, No.2, 333–371(2023 年4 月)、の貢献を一般向けにわかりやすく解説する。

Abstract

 This essay provides a brief introduction to journal article “Bubbles, Crashes, and Economic Growth: Theory and Evidence” written by Pablo A. Guerron-Quintana, Tomohiro Hirano, and Ryo Jinnai. It was published in the American Economic Journal: Macroeconomics (Vol.15, No.2, pp. 333–371) in April 2023.

本文

 

 

■ 繰り返すか、繰り返さないか、それが問題だ。

 Guerron・平野・陣内が 2023 年に American Economic Journal: Macroeconomics 誌に発表した論文は、バブルが発生と崩壊を繰り返す状況(以後、「繰り返しバブル」と呼ぶ)を標準的なマクロ経済モデルで分析した点にその貢献がある1)。バブルが繰り返すのは当たり前ではないかと思われる方は、それがいまさら貢献になるのかと不思議に感じるかもしれない。しかし、少なくとも経済理論的にはバブルが繰り返すことは自明では無い。「そんなことはあり得ない」と主張する議論すら存在する。
 「将来のある時点でバブルが起こるなら、それはもう起こっているはずだ」という議論がそれだ。これは合理性を仮定した標準的な資産価格決定理論で普通に得られる結果だ。仮に将来のある時点でバブルが起こると人々が予想したとしよう。この場合、バブルの発生が期待される資産は将来、値上がりが見込めることになる。投資家がそれを放っておくはずがない。当然その資産を買いに走る。需要が高まり、価格は今から上がるはずだ。この推論から、将来バブルが起こるなら、それは今の価格に織り込み済みのはずという結果が導かれる。全く予期されていなかったイベントが突如として起こるという多分に仮想的な状況を除いて、いまバブルが無い資産に将来バブルが発生することはありえないというわけだ。禅問答のようでもあるが、論理を研ぎ澄ませて得た結果であり、研究上、無視するわけにはいかない。歴史を振り返ればバブルが繰り返すのは当たり前のように思えるが、経済理論はそうでは無いという。一体どう考えたら良いのだろう。

1 この論文は全米経済学会の公式ウェブサイトのコラム、Research Highlights でも取り上げられている(https://www.aeaweb.org/research/bubbles-crashes-economic-growth-us)。

■ バブルだって繰り返す!MartinとVenturaの研究。

 この難問をクリアする一つの方法を提示したのが、Martin & Ventura が 2012 年の American Economic Review 誌に発表した論文だ2)。多くの優れた研究がそうであるように、種を明かせばなんということはない。新しい種類の資産が新たに生まれることを考えれば理論的な齟齬がなく繰り返しバブルをモデル化できるのだ。現実的な例としては暗号資産を考えれば良いだろう。また、「新しい種類」を文字通りに解釈する必要は必ずしも無く、バブルはいつも別の顔をしてやってくる(しかしどんな顔かは予測できない)という比喩だと考えても良い3)
 Martin & Ventura のモデルでも、個別の資産に関しては「不可能性」に関するロジックが成立して構わない。つまり、バブルが無い資産に将来バブルが発生することはないとして良い。それでも、経済はバブルが無い状態からある状態に移行することが可能だ。新たに生まれた資産が、それが誕生した瞬間からバブルを伴って経済に現れるということがあり得るからだ。
 Martin & Ventura はバブルの研究を進展させたが、実は彼らのモデルはそれ以前からあった繰り返さないバブルのモデルと本質的なところで大差が無い4)。というのは、彼らのモデルでは、そもそもバブル発生に関する人々の予想が行動に全く影響を与えないからだ。この結果は、彼らが 2期間の世代重複モデルを採用したり、老年期にしか消費を行わないなどの強い仮定を置いたりすることによって生じたものだ。これらの仮定により分析は容易になった。しかし、バブルが予想されていてもそうでなくても人々の行動が変わらないならば、予想されずに突如バブルが発生すると考えるそれまでの研究と本質的には何も変わらないではないか。この批判はおそらく妥当だろう。

2 Martin, Alberto, and Jaume Ventura (2012). “Economic Growth with Bubbles.” American Economic Review,102(6): 3033–58.
3 このフレーズは新書のタイトルから借用した。熊野英生(2010)「バブルは別の顔をしてやってくる」日経BP マーケティング。
4 代表的な研究として以下を挙げる。Samuelson, P. A. (1958). “An Exact Consumption-Loan Model of Interest with or without the Social Contrivance of Money.” Journal of Political Economy, 66(6), 467–482. Tirole, J. (1985).“Asset Bubbles and Overlapping Generations.” Econometrica, 53(6), 1499–1528. Weil, P. (1987). “Confidence and the Real Value of Money in an Overlapping Generations Economy.” Quarterly Journal of Economics, 102(1),1–22.

■ バブルが繰り返すと行動はどう変わる?Guerron、平野、 陣内の研究。 

 Guerron・平野・陣内の研究は、この点において Martin & Ventura の研究と大きく異なる。我々は繰り返しバブルを標準的なマクロ経済モデルに導入した。家計は無限期間を生きて毎期消費を行うし、労働供給は弾力的で、資本の稼働率も可変だ。現代のマクロ経済学におけるもっとも標準的な設定といっていい。家計はバブルが確率的に発生することも、それが確率的に崩壊することも正しく予測して、置かれた状況で最適な行動を選択し続ける。
 当然、Martin & Ventura に比べて分析は格段に難しくなる。しかし、我々は内生的成長理論モデルが持つ性質をうまく利用して分析を簡単にするという工夫によってそれを克服した。そして、標準的なマクロ経済モデルに繰り返しバブルを導入し、バブルの発生や崩壊が経済成長や厚生に与える影響を定量的に評価できるようにした。
分析から明らかになったのは、バブル発生に関する予想自体が経済成長や厚生に大きなマイナスの影響を持つことだ。バブル発生を期待すると、合理的な経済主体は先送り行動を選択してしまう。どうせバブルが起こるならいますぐ貯蓄をしなくても良い、一生懸命に働かなくても良い、ひとたびバブルが起これば問題は解決するのだから。単純化して言えばこのように考えて人々は怠惰に流れてしまうのだ。
 具体的には、日経平均株価がピークを記録した 1989 年 12 月 29 日から山一證券が破綻した 1997年 11 月 24 日までの期間を考えて欲しい。この期間、世の中には妙な楽観が存在していなかったか? それはバブルが息を吹き返して、資産価格が再び上がるかもしれないという希望的観測ではなかったか? その「オプティミズム」が、不良債権処理の遅れなどを招いたということはないだろうか? 我々のモデルが抽象的なレベルで捉えているのは、具体的に言えばこのようなストーリーだ。
 バブル期には好景気で経済成長率が高まる。これはバブルの良い面だ。既存の研究はこちらに注目して、バブルは経済厚生にプラスだという結論を導きがちであった。しかし、我々の研究はバブル発生の期待が経済成長を押し下げるという隠れたコストを見つけ、それが定量的にも無視できない大きさであることを示した。実現したバブルが短期的に好景気をもたらすとしても、長期的に望ましいかどうかは全く自明でなくなる。この視点が Guerron・平野・陣内論文の新規性であり、それをマクロ経済学者の共通言語で語り、応用できるようにしたことが我々の学問的な貢献だ。

PDF

Full Text

Bibliographic information

Vol. 74, No. 1 & No. 2, 2023
Article Number: er.cl.031423
DOI (Link to J-STAGE): https://doi.org/10.60328/keizaikenkyu.er.cl.031423
HERMES-IR(一橋大学機関リポジトリ): https://hdl.handle.net/10086/83081